ミステリックサイン アフターストーリー

長門と古泉が共闘したSFバトルを書きたかったので書いた。
完結済みの作品です。以下本編です。

​​本編

 俺たち、ハルヒを除くSOS団のメンバーはとある事件の後処理をやっている。その事件はハルヒが描いたSOS団のエンブレムがきっかけであった。
 ……そうだな、この事件の名称を“ミステリックサイン”と呼ぶ事にしよう。
 この事件で七人の被害者がいた。その内、北高生は五人。残りの二人は新幹線を使わないと行けない場所にいるようだ。
 俺たちは北高生の三人目の家にいた。そして、この家は……須藤である。

「……この部屋の内部に、局地的非侵食性融合異時空間が特殊制限モードで単独発生している」
「……コンピ研の部長の時と言葉が同じようだがどういうことなんだ? 長門?」
「特殊な異空間が存在する」
「つまり前の空間とは異なるのですよ」
「彼の場合、畏怖の対象が実体化するが、それは記憶されている事に制限されている」
「なるほど。そういうことか」
「そろそろ、始めましょうか。長門さん、お願いします」
「わかった。㎎⑰ЩⅧМかη≫ロゑ∈⊿2Ⅱфuφ£…」
 長門が呪文を唱えた瞬間、周囲の空間が暗転した。
 しばらく、すると灰色の世界が広がっていた。まるで閉鎖空間のように。

「早速、敵が現れたようです。見てください。あの黒いアメーバ状のものがそうです」
「まるで、インベーダみたいだな」
「彼らは情報意識形成体の亜種。彼らは精神攻撃や精神意識体の情報にハッキングする能力を持つ」
「その精神意識体ってなんなんだ?」
「私たち、人間に例えると、魂にあたる存在ではないかと」
「なるほど。って古泉、うしろうしろ!」
「おっと、ふんもっふ!」
 派手な効果音が響き、攻撃されたそいつはあと形もなく消滅した。
「まだ複数の存在を確認。大元の情報意識形成体を消滅させない限り、彼らは何度でも復活する」
 って長門! 解説している場合ではないと思うが……

「ふん……もっふ!!もふもふもふっ!」
「a5£j!9оⅡg㍑∮ё∬」
 長門が呪文を唱え、黒い怪物が大量に、消滅した。
 ふと、違和感がして上を見ると巨大な黒い怪物が浮かんでいた。
「おい、古泉。上空になんか巨大な黒いものがあるんだが」
「……あれが本体。情報意識形成体の本体に攻撃して消滅させる」
「あれが親玉ですか。まさか、擬態しているとは」
 古泉は少し疲れた様子でそう言った。
「これは……エイ?」
「そのようですね。彼の畏怖の対象がエイだったとは」
「古泉一樹。あなたの攻性情報を強化する。腕を」
「わかりました」
 そういって、長門は古泉の腕に噛みついた。
 といっても甘噛みだが。古泉はさぞかし驚いているだろう。
「…………………」
「……完了した」
「……あ、はい。わかりました」
「古泉、大丈夫か?」
「ええ、まあ。少し驚いただけですから」
「そうか。わかった」

「……くる」
「何がくるんだ?」
「彼らの攻撃がくる。10秒後に」
 な、なんだってー!!マジかよ

 彼ら、つまり情報意識形成体の攻撃が一斉に上空から降ってきた。
 槍のような物体や剣などの様々な鋭利な物が俺たち、三人に降り注いだ。
 しかし、長門お得意の結界、いわゆる対情報遮蔽スクリーンを展開して、俺たちを守っている。
 巨大なエイの怪物は、この攻撃が効いていないと判断し、違う方式で攻撃してきた。
 そして俺たちのいる空間が変容し始めた。
「いったい、何が起こっているんだ?」
「どうやら、この空間がハッキングをうけているようです」
 今度は情報戦である。情報意識形成体が、長門が展開している対情報遮蔽スクリーンを解除しようとハッキングしてきたのである。
「ё *〃仝@%∬㍑㎞д仝ゐ……」
 長門が必死に呪文を唱えてハッキングの妨害をしていた。
 長門が呪文を唱える間にも古泉は巨大なエイの怪物に攻撃していたが、あまり効いていないようだ。長門がまた呪文を唱えた。しかし聞き取れる声でこう言った。
「SELECT エマージェンシーコード FROM データベース WHERE コードデータ ORDER BY 物理情報戦闘 HAVING ターミネートモード。パーソナルネーム喜緑江美里の空間跳躍を申請。当該対象の有機端末情報を位相転移する」
 長門が呪文を言い終えた瞬間、一部の空間が白色に閃光し、喜緑さんが姿を現した。

「パーソナルネーム喜緑江美里の位相転移に成功」
「皆さん、お怪我はないでしょうか」
「俺は無事ですが、古泉が擦り傷だらけだ。喜緑さんお願いします」
「わかりました。少し、我慢してください」
 喜緑さんが呪文を唱えると、みるみるうちに、古泉の怪我が治っていく。まるで治癒の魔法だ。
 ついでに制服も綺麗になっていく。
「……ありがとうございます」
「対情報遮蔽スクリーンを多重展開」
 長門がそういうと長門を中心として三角錘状の障壁が自分が視認した限り三重に展開されていた。
「長門、いまのところはその障壁は大丈夫なのか」
「大丈夫。あとは彼らを有機情報連結解除するだけ。許可を」

 巨大なエイの怪物は、またもや長門の展開した対情報遮蔽スクリーンを解除しようとハッキングを仕掛けてきた。
「展開率97%、再生率91%、強化率92%、遮蔽率43%。遮蔽率が著しく減少。すぐに回復措置をとります」
そういって喜緑さんは高速詠唱を行った。当たり前だが全然聞き取れない。日本語をしゃべっているのかも疑わしい。
「彼らを情報連結解除するには一度遮蔽スクリーンを解除しなければならない。解除した瞬間、喜緑江美里が展開している遮蔽スクリーンに避難して」
「わかった、長門。古泉、おまえはどうする?」
「僕は……そうですね。長門さんの援護をします」
「わたしは古泉くんのサポートをします」
「ありがとうございます、喜緑さん」
 お互いにやるべきことが決まった。あとは怪物を消滅させるだけらしい。
「長門、大丈夫か? 疲れているように見えるが」
「疲れているけど大丈夫。あなたの存在がわたしの疲れを癒してくれるから」
「そうか……長門がそこまで、俺を思っていたなんて。また今度暇な時に図書館連れて行ってやるからな」
「約束して」
「あぁ、忘れないさ」
「……そろそろ止めを刺す。あなたは別の対情報遮蔽スクリーンにすぐに飛び込んで」
「わ、わかった」
 俺が返事をした瞬間、長門と古泉は同時に空中浮遊して、彼らの攻撃を巧みにかわしたりした。
「準備ができた」
「よろしくお願いします。長門さん」

 情報連結解除。長門たちの最もレベルの高い情報操作でもあり、一瞬にして有機情報連結を解除する事ができる。まさに最強の情報操作である。だが操作レベルが高過ぎるために、申請式になっている。
 つまり、長門たちの親玉、情報統合思念体に許可をとらなければならない、というタイムロス的な欠点が存在する。そして、直接的に接触しないと発動できないという欠点も存在するのだ。
 長門の話によれば、エイの怪物が発生させた異空間は一種の情報制御空間となっているので、申請に時間がかかると言っていた。
 俺に何か出来る事はないだろうか。しかし、俺は正真正銘の凡人である。長門の役に立ちたいが、普通人である俺には何もできない。出来ても励ます程度しかできない。
 どうする、俺!?
「情報遮蔽スクリーンを解除」
「セカンドレイド!」
 古泉の強力なエネルギー弾が怪物に激突。体の1/3が消滅していた。だが、すぐに再生が開始される。 「まずい、再生速読が上昇している」
 エイの怪物は長門に鎖上の槍を飛ばしてきた。長門は避ける。
「*%」*+@*…/5゙@……対密閉情報虚弦斥力場形成」
 長門が明らかに別次元的な呪文を唱えた。明らかにこの世界では発音できない音が混在していた。
「バステルファイヤー!!」
 長門と古泉の攻撃によってエイの怪物は体の1/2以上が消滅していた。
「セカンドパズルゥ!」
 古泉は紅色の紐状な攻撃をし、まるで釣りをするように、エイの怪物を引き寄せ、ぐるぐるに縛って動けなくした。
 そこにすかさず長門が瞬間移動で怪物に近づき、怪物に接触し、
「%+@-}…申請完了。情報連結解除開始」
 長門がそう唱えた瞬間、再生途中だったそいつは、跡形もなく消滅した。そして空間も正常化していた。
 つまり、元の空間に戻ったのだ。須藤は床に仰向けで気絶していた。
「空間の正常化を確認。念のため部屋の周囲半径25メートルをスキャンします。……異常ありません」
「お疲れ、長門。ほんとありがとうございます、喜緑さん。……古泉。大丈夫か?」
「大丈夫。あなたのおかげで彼らを消滅させる事ができた」
「いえいえ、どういたしまして」
「……どうして、最後に自分なんですかね」
「長門、マンションまで送っていくよ」
「……ありがとう」
「……では我々も帰りましょうか。喜緑さん」
「そうですね。帰りましょう」

 そうして、俺たちは非日常から日常に戻り、いつものように帰宅した。
 どうやら、後の一件は別の長門のお仲間がいくらしい。

Fin…

おまけ

 キャーーーッ!!
 なんだいまの叫び声は!! 俺はくつろいでいた部屋から飛び出し、リビングにたどり着くと、…なぜか、この世のものとは思えない巨大なゴキブリがいた。通常の成体の大きさと比べると、約10倍の大きさのゴキブリがいた。いつのまにか、周りの空間が自宅のリビングではなく、長門が言っていた“位相空間”になっていた。
 妹はしゃがみこみ、俺の脚をつかんで離さない。俺はどうすればいいんだ!?
 長門!助けてくれ!
 そう、頭の中で考えた時、その場にいないはずの長門の声が頭の中で聞こえた。
≪あなたの自宅のリビングで位相空間を検知した。この空間は特殊で私のような存在では、侵入することが困難であるため、あなたの体に事前に仕込んだナノマシンを媒介して制御している。≫
 なに!制御だと?
 そういえば、いつのまにか体が思うように動かないのはそのためなのか?
≪そう。わたしのコア意識体のみ侵入できた。後はわたしに任せて。≫
 わかった。…もしかして、全身の神経も制御してますか。長門さん。
≪全身を制御しないと、情報分離体を消去できない。
 そろそろ彼らが攻撃を仕掛けてくる。許可を。≫
 ……よし、やっちまえ!
 おれの脳内の掛け声と同時に妹は意識を失った。おそらく、長門が眠らせたんだろう。
 そうこうしているうちに俺の体は激しく動き、情報分離体とやらを消去しにかかった。口が勝手に動く。長門が前に唱えたあの高速呪文だ。しかし、それほど早く動いていなかった。まるで、口周りだけ時間操作したように。
 そして、体も動く。しかも瞬間的な画像が現れたり、消えたりした。まさか自分の体がこんな常人離れした動きをしているとは、と思うと、なんだかすごい体験をしているのだなと思った。
 また、口が勝手に動き、呪文が詠唱された。巨大ゴキブリが俺の体に襲いかかろうとするが、詠唱の効果により巨大ゴキブリが宙を舞い、爆散した。
 だが、その破片が、徐々に再生し始め、散開していた破片をより集め、融合し始めた。そして、また完全な巨大ゴキブリになり、攻撃を仕掛けてきた。
≪Where code date order by Attacking Strategy In having taminating mode…≫
 脳内で、長門がきれいな発音ともにどこかで聞いたことあるような呪文を唱えた。
 俺は長門に脳内で思わず語りかけていた。
 どうした、長門。呪文の内容が俺にも聞こえたんだが…
≪焦りすぎて、指向性モードにしていた。でも、安心して。ヤツは必ず消滅させる。≫
 そういって、再び破片の一部を分析しながら、さまざまな攻撃に対抗していた。
 10分間ぐらいだろうか。それぐらいたった後、いくつかの攻撃に耐え、反撃していた長門が、いままでとは違う戦略を仕掛けた。
 どうやら、破片の分析が終了し、対抗する手段を行動に移したのだ。
 いつのまにか、空間の雰囲気が徐々に変わりつつあった。どうやら、長門の戦略がうまくいっているみたいだ。みると、巨大ゴキブリは当初のサイズから三分の一ぐらいなまでの大きさになっていた。どういう戦略なのだろうか。あとで、長門に聞いてみよう。
 そして、この間、俺たちを守った物理結界の情報で作成した何かをあのゴキブリに投げつけた。
 音はしなかったものの、その投げつけた衝撃波が視認できるほどの速さだけはわかった。なんせ帯が引いていたからな……。
 そして、20分ほどの攻撃は終了した。
 長門、もう終わったのか?
≪まだ、終わっていない。この情報物理結界に閉じ込めた情報生命体の解析結果を情報統合思念体に報告しなければならない。≫
 そ、そうか。えっと、報告した後はこいつはどうするんだ?
≪それは統合思念体の判断を待つ。≫
 わかった。で、そろそろ体の制御を戻してほしいのだけれど。
≪それはもうちょっと待って。今、判断の情報が届いた。
 とある実験天体にこの情報生命体を隔離することになった≫
 実験天体って情報統合思念体が使っているものなのか?
≪そう。実験天体は数億個に達する≫
 す、すごい数だな。でも、そんなに必要なのか?
≪宇宙は広大。10兆個以上の銀河団で構成されている。そのなかで私たち統合思念体はインターフェイスを通して、様々な交流を重ねてきた。≫
 歴史とかはどうなっているんだ?
 それなりに長いとまとめるのも大変そうだけど。
≪すべて、データベースとして蓄積されている。その容量は100ゼタ以上とされている。ちなみにゼタは1021の情報単位。≫
 それにしても、すごい量だな……
≪報告の続きが来た。折衷派の管理するAD0134実験天体に転送することが決定された。転送座標確認……目的コードの誤差修正完了。断片的転送開始。≫
 そういって、情報結界を施された情報生命体が徐々に消えていった。
 どうやら、意外に容量が大きいらしく転送には時間がかかるらしい。
 それにしても、今回の情報生命体はどうして、俺の家に現れたんだ?
≪それは現在、調査中。原因が判明したら、あなたにも話す≫
 そうか。助けてくれてありがとな。
≪転送が終了した。通常空間に復帰する。≫
 
 …
 ……
 ………
 どうやら、ずっと立っていたらしく、倒れそうになった。
 しかし、後ろから支えてくれた人物がいた。
 さっきまで俺の体に意識を宿していた、長門だった。
「すまん、ありがとう」
「気にしないで、あなたの体を使ったのはわたし。だから……」
 そういって、続けて、爆弾発言をした。
「明日はあなたの面倒を見る」
 な、なんですと!? 長門さん、それはマジですか!?
 恥ずかしさ四分の一、嬉しさ四分の一、ハルヒ怖い半分の気持ちになった俺であった。